Anyalog

ネトゲと音声合成と備忘録

「二人、音のない夜空に。」のちょっとした話

この記事ではこの動画の話をします。



動画の雰囲気はいいけど内容が嫌」って感想をいただいたので、内容の解説をします。
視聴済向けなのでまだの人は観てきてください。内容も綺麗です、多分。

で、解説をします……が、観た人が色々解釈できるようにも作ってあるので「あくまでこういう解釈もあるよ」くらいに受け取ってください。

各種設定とかベースになった音楽やゲームの話もします。多分長いです。


設定の話


まずは「ここはどういう世界なのか?」をお話します。

この動画では"2つの月"という表現で"地球と月"を表現しています。しかし、これはそのまま地球と月を指している訳ではなく、これらが存在する世界の比喩です。
これはRewriteから着想を得ました、今年で10周年ってマジかよ……。

じゃあ「どの世界を指している表現なのか?」という話になりますが、端的に言ってしまえば
青い月はこの世、白い月はあの世のことを指しています。

青い月 = 地球 = 皆が生きていた世界 = この世
白い月 = 月 = 誰も居ない世界 = あの世

みたいな感じです。

この街は不思議に思うくらい音がない。いつも見ていた街並みには、もっと音があった
これはよく知っている街並みでも、誰も居ない別の場所であることを示しています、白い月の世界に広がる街は幻影に過ぎません。ちなみに写真素材はサムネまで含めすべて渋谷で統一しています。

渋谷である理由は、あの街は24時間誰かしら歩いていて、誰も居ない時間というものが考えにくいことからです。他の街でもよかった感はある。

これを踏まえた上で次のキャスト設定へ話を繋ぎます。


キャストの話と前日譚


まず、琴葉茜は既に亡くなっています。

お世辞にも恵まれた環境にいるとは言えなかった彼女たち姉妹は、お互いを励まし合いながら日々をしぶとく生きていましたが、我慢を続けていた彼女に限界が訪れてしまいました。
そしてある日、普段甘えるような素振りは見せないのに、妹である琴葉葵から離れようとせず、同じ夜を過ごしました。そしてそのまま目覚めることはありませんでした。

死因はODです。恵まれなかった環境についてはご想像にお任せします。

そして妹の琴葉葵は、何かがおかしいと思ったのにも関わらず、いつもと変わらず笑う姉を前に何も出来なかったことを強く後悔することになります。
昔、自分の自殺を止めてくれた姉が先に死んでしまった。どれだけのものを抱え込んでいたのか、今となっては知る由もありません。もう彼女と話すことは叶わなくなってしまったから。

強く大きな感情は、どんなものであれ人を変えてしまいます。
それは琴葉葵も例外ではなく、彼女は"私"と呼んでいた弱い自分の後悔と願いを引き継ぎ、同時に"僕"と名乗ることで弱かった頃の自分と決別しました。したはずでした。
しかし、そう簡単に捨て切れるわけもなく、彼女は自分の心を誤魔化し続けながら1人で生きていくことになります。

そしてそれも長くは続かず、姉の死から少しして、彼女は1つの願いと1つの後悔を持って、琴葉茜の後を追うこととなりました。

死因は姉と同じくODです。

まだ琴葉葵が生きていた頃のイメージソングは Rewind you / somunia です。



ここまでがキャストの設定、および本編開始直前までのお話となります。

次は本編に関する話をしていきましょう。


本編の話


琴葉葵の影がどこかを歩くところから始まります。人っ子一人居ない場所で何かを探して彷徨いますが、思った通りの場所にたどり着いた彼女はどうやらこの場所を知っているようです。
駅前にたどり着いた彼女は、誰も居ないのをいいことに、交差点の中心に立ち、何かの音を探します。しかし目当てのものは見つからず、何のためにここに来たのかを考えます。

疲れを感じた彼女はそのすぐ近くにあった休憩スペースに陣取ります。そして無機質に輝く青い月を見上げ、あの場所であったことを振り返ります。そして、今よりもずっとずっと弱かった頃の自分のことを思い出しました。

そんな時、あるイメージが脳裏をよぎりました。

それは「その先へ行かないで」と引き留める"琴葉茜の幻影"でした。

どうしていきなりそんなものが視えたのか、もう戻れないのに。そう思った時、突然頭を撫でられました。その感覚こそ、琴葉葵が求めていたものでした。

顔を上げると、そこには姉である琴葉茜がいました。いつの間にそこに立っていたのでしょう?足音さえ聞こえなかったのに。
最初は怒られると思いました、しかし予想とは正反対で、琴葉茜は優しく、でもどこか悲しそうに笑って、左手を差し出してくれました。その手の人差し指には、いつの日か内緒で買ったペアリングが嵌められていました。

差し出された手をとって彼女は立ち上がります。今度は離さないように、しっかりと手を繋ぎ、もう一度交差点の中心へ、街明かりと青い月に照らされた影に見守られながら2人の時間を過ごします。この時間こそ、琴葉葵が求めていた願いの一つでした。

どうしてこっちに来たの?
どうしても会いたかったから

もちろん本当のことです、でもそれだけではありませんでした。
琴葉葵は、琴葉茜を守れなかったことを強く後悔しています。

私に出来なかったことを、僕がやるために来たんだ
あの時の優しすぎた嘘を、こんな風に出来たらって
そうすればきっと、あんな世界でも、好きで居られたと思う
だからこそ、二度と離れたくなかった。今度は一人にしないからって約束したかった

これらの言葉には

命を絶ってでも、大好きな姉の隣に居たいという覚悟
かつて自分を救ってくれたように、大好きな姉を救いたかったという後悔
どんなに辛くても、大好きな姉が居てくれれば、きっと今も生きていたという願望

そしてこれら全てをひっくるめて

「これからはずっと一緒に居るから」と約束しにここへ来た、という強い想いが込められています。

そして、空が明るくなり、朝が近づいてきました。こんな世界でも朝は来ます。
この世界の朝は"時間切れ"を意味します。

幻影の街は正確には生死の狭間であり、生きたいと願うか、死にたいと願うか。その選択には時間制限があるということです。どっちつかずのまま朝を迎えると、そのまま死へと向かうことになります。

止めないで。終わらないで』この一文は、last night / somunia から来ています。そのため字幕には対応するコーラスである『ずっと。どうか、このまま』に合わせています。



そして最後に街の幻影は消え、白い月……無の世界であるあの世が本来の姿を現しました。
何もない世界だけど、大好きな人と2人なら、それ以外は何も要らない。そう本心で思うからこそ、最後の一文

白い月の上で、僕達は永遠を謳歌する



演出とメタい話


メタい話が出ます。

動画内で、ビジュアライザーの後ろで心電図が表示されているんですが、これは彼女がまだ「物理的には生きている」ことを示しています。そしてこの心電図は徐々にテンポを落とし、最後には見えなくなります。(誰も気づいてくれなくてかなしい)

心電図が消えるタイミング、それは琴葉葵の最期であり、その後心電図が映らなくなったのは彼女が物理的に死んでしまったことを指します。その切り替わりにあったのは「琴葉茜の幻影」です。
そして幻影の声は「琴葉茜をイメージした琴葉葵の声」であり、実際には琴葉茜ではありません。琴葉葵のイメージ上の琴葉茜です。

メタいことを言うとボイスフュージョン機能を使ってます。

死んでしまったことをきっかけに、葵は茜の存在に気づくことが出来るようになりました。
自分の音しか聞こえなかったのは、まだ彼女が生きていたことを現していて、死んだことによって死の世界に居る琴葉茜の音を聞き取り、見ることと触れることが出来るようになりました。

幻影より後のビジュアライザーも琴葉葵の声を表示しています。
声が優しくなったような気がするというコメントもありましたが、きっとそういうことでしょう。

投稿時間や再生時間にも全て意味を持たせてまして。投稿時間は深夜2時、丑三つ時は鬼門の時間であり、死の世界への扉が開く時間だと解釈して決めています。

そして再生時間の5:30は、そのまま時刻として読むと早朝になります。
朝まで2人で踊る、そして近づく時間切れ、朝に来てほしくない……。きっとこれは最後の夜だから。今だけはどうか。

こんな風にlast nightの歌詞を引用して琴葉葵の心情や願いを表現しています。
誰かlast nightの歌ボカバー作って

BGMには「音のない夜空に」のInstを流してます、タイトルもここから来てます。



おわりの話


投コメにもこっそり書いたんですが……。
この動画、実は以下の2つの動画に影響を受け「A.I.VOICEの試運転も兼ねて独り言系の動画作ってみよう」となったところから始まりました。

まさかこんなことになるとは思ってなかったんです、本当です。



お二方には大変申し訳無いと思っています、感想も本当にありがとうございました。
そして本当にごめんなさい。こんなはずじゃなかったんです……。
ちゃんとした独り言はいつかリベンジしたい。雰囲気がまるで違うのでぜひ視聴してほしい。

立ち絵に関しては実はかなり悩んでて、いっそのことなしで行こうと考えていました。
そんなタイミングでユメのオワリさんが姉妹立ち絵をリリースしたのを発見して「これ!!」となりました。もう速攻でDLしてました。本動画ではシルエットのみで雰囲気を感じてもらえるように意識して使わせていただきました。

スチルやサムネには、去年の秋にさよなかさんがEofVで頒布した「ことのはzip」に同梱されていたおまけ素材をお借りしているのですが……。
編集途中でもうこれしかないな、みたいな謎の確信がありました。それと、いつかどうしても使ってみたかった。
サムネは今まで作ってきた中で最高の出来だと思ってます、透明感を出して生死の境目に立つ琴葉葵をイメージして作りました。

そうそう、投コメ欄の「おいていかないで」は琴葉姉妹死別合同のさよなかさんの作品内の台詞の1つで、この動画自体にも多少なりオマージュが含まれています。去年の夏くらいにTwitterで公開してたと思うので探してみてください。

改めてありがとうございました。あとダークサイドで使っちゃってホントごめんなさい……。

この動画はとにかく「雰囲気と文章、そして自分にしか作れないと思ってる琴葉葵の声」で引き込むことを考えて作ってましたが、開き直ってやりたい放題やるのも大事だなぁと思いました。
なんだかんだ言って自信ある出来になったのと、冬眠してたモチベも帰ってきたのでよかったかなと。

コメントも感想も別解釈もめっちゃ待ってます。somuniaはいいぞ。
長々としたクソ文章を読んでいただき、ありがとうございました。